Hさんは四十二歳の総務管理職、勤めていたアパレル会社の合併により、転職を余儀なくされた。出来れば近い業界での転職を望んだHさんは、結局、技術ソフトのマニュアル作成会社A社へ入社することとなった。A社の総務部長という待遇には喜んでいたものの、Hさんは内心、失意を抱えてA社への入社を決めていた。というのはHさんが第一希望に考えていた服飾雑貨の企業や、大手系列の輸入家具販売の企業などの採用が、最終面接まで進みながら不採用になり、Hさんとしてはもっとも行きたくなかったA社に進む以外に道がなくなってしまったからだ。
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HさんがA社を避けたいと思ったのは、Hさんに技術的な知識がなく、A社の業界がまるっきりアパレルと畑違いだったこともあるが、最も大きな理由は社風だった。A社社員の平均年齢は二十六歳、社長でさえ二十九歳の若さで、三十代の社員は一名しかいない。四十代はもちろんHさんただ一人である。良く言えば若くて活気のある社風だが、Hさんにとっては幼く、規律がゆるい会社としか思えなかった。電話応対や接客態度は拙く、何とか社会人らしい話し方が出来るのは社内でも数える程しかいない。社員同士が名前を呼ぶときは、役職どころか、名字で呼ぶ合う事さえない。どちらかと言えば堅いサラリーマンであったHさん、あまりにもざっくばらんなA社と、若い社員に馴染める自信がなかったのである。